おかしな日本財政破綻論①:日本とギリシャの違い
少し前の話になりますが、国の借金が1,053兆円になったという財務省発表をうけ、メディアがこぞって国民一人あたり約830万円の借金だなどと報じています。
日経:http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL10HNY_Q6A810C1000000/
産経:http://www.sankei.com/economy/news/160810/ecn1608100029-n1.html
時事:http://www.jiji.com/jc/article?k=2016081000811&g=eco
どんな意図があるのか分かりませんが、極めてミスリーディングな表現です。
・我々日本国民はいつの間にか膨大な借金を抱えており、返済せねばならないのでしょうか?
・日本の国家財政は危機的であり、ギリシャのような破綻が迫っているのでしょうか?
違いますからね。日本の財政について大分前に記事を書いたことがありますが、改めて順を追って説明してみたいと思います。まずは、ギリシャとの比較から。
日本とギリシャの大きな違い
2010年、ギリシャが財政赤字や債務残高といった統計を大幅に下方修正したことに端を発し、ギリシャ経済は危機に陥ります。EUによる金融支援だの、ギリシャ自身の緊縮財政政策が先だの、いやいや債務削減合意だの、EUを巻き込んで大きな混乱が起きました。そして2015年6月末、とうとうギリシャはIMFへの債務を期限内に返済できず、事実上デフォルト状態となります。
混乱のさなか、日本ではこんな報道が流れていました。
・日本の債務残高(対GDP比)はギリシャよりさらに大きい。
・このままでは日本もギリシャのようになってしまう。
確かに日本の債務残高(対GDP比)はギリシャより大きいです。それどころか先進国の中でダントツに大きい。この数字は今でもよく使われ、メディアはこぞって危機を煽ります。
しかし、そもそも日本がギリシャのようになる訳がないのですよ。
なぜなら、通貨という点で日本とギリシャには大きな違いがあるからです。
日本 | 独自通貨「円」 |
ギリシャ(EU加盟後) | 共通通貨「ユーロ」 |
これだけのことですが、債務の返済を考える時に決定的な違いを生みます。
そう、日本は「円」を自国で刷れますが、ギリシャは「ユーロ」を刷ることができないのです。
国債を買ってくれた相手からお金の返済を求められたとしましょう。
ギリシャは勝手にユーロ紙幣を印刷することはできませんから、返済にあてるユーロを何らかの手段で”稼ぐ”なり”借りてくる”必要があります。
一方の日本はどうでしょうか?
刷ればいいんですよ。簡単な話です。だって自国通貨「円」なんですから。
もちろん、こんなことを続けたら日本は信用を失い、同時に通貨「円」の価値は大きく毀損、メディアの大好きな円安になって日本経済が華麗に復活…する訳はなく(笑)、日本経済は大混乱に陥るでしょう。しかし、デフォルト(債務不履行)は回避可能です。先進国の自国通貨立て国債のデフォルトなど議論するだけ無駄ということですね。
余談ですが、ギリシャは独自通貨という経済の調整弁を失っているからこそ、EUを巻き込んであれだけ混乱したとも言えるのです。もしギリシャの通貨が独自通貨ドラクマだったら、上に書いたようにドラクマの価値は大きく毀損したでしょうが、ギリシャの持つアセットが安くなったどこかのタイミングでビジネスマンがリスクをとって投資を始め、ずっと早く再生プロセスが見えたはずです。一方、ユーロを紙切れにすることはできません。ギリシャもどうかと思いますが、こういった事態をあらかじめ想定していなかったEUも健全な組織とは思えません。
債務残高(GDP比)とデフォルトの関係
では、ダントツに大きい債務残高(対GDP比)はどう考えればいいのでしょうか?
それっぽい数字なので何となくヤバい気がするかもしれませんが、そもそも債務残高をGDPで割り算した数字に何の意味があるのか意味不明です。企業でいえば、借金をフロー(売上や利益)で割り算する訳ですが、借金の大きさを比較する一つの指標にはなり得ても、それだけで企業の財務安全性を測ることなどできません。
しかも、過去のデフォルト国家とその債務残高(GDP比)との間には相関すら見出せないのですよ。こんな数字でデフォルトを説明したら、統計の先生が怒ります。
しかし、財務省のこういった話を真に受けて消費増税を決めてしまったのが当時の政権。
いましたよね、こんなこと言ってる政治家が。
・日本をギリシャみたいにしないために消費増税を実現することは政治家の責任である
・ここで消費増税を決められなければ、私は日本国債を売る
経済音痴もここまできたら立派なんですかね。「危機回避のために消費税を上げる」なんて聞いたらギリシャがビックリしますよ。「その手があったか!」とは絶対ならない(笑)。日本国債売って大損するのは自由ですが、日本経済を壊さないでもらいたいものです。
次回に続きます。
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