これから何回かに分けて日本経済について書いてみようと思います。以前に書いた日本の財政の話はストック(富の量)、今回はフロー(富の流れ)の話になります。どちらも巷にあふれる情報にあまりにミスリーディングなものが多く、このブログをご覧になられるような方が最低限ご存知であった方がいいと思われる内容を、情報ソースと共にまとめます。

  • 日本経済は円高によって危機に陥り、昨今の円安によって復活したのでしょうか?そもそも日本は輸出国家なのでしょうか?
  • 消費増税に際し、マスメディアや専門家と呼ばれる方々は景気への悪影響はないと断言していましたが、実際に影響はなかったのでしょうか?
  • アベノミクスと呼ばれる金融緩和と財政出動(公共事業)によって、日本経済は復活したのでしょうか?

いろんな意見はあっていいのでしょうが、正確な事実をベースに皆さんがご自身で考えられるように…、そんな思いで始めます。

GDP統計

さて、まずはGDPから。
内閣府がまとめたGDP統計はこちらに公開されています。
最新の「2017年」、これまた最新の2017年8月14日公表の「統計表」とクリックしていくと、現時点での最新統計データが現れます。下に引用したのは「実質年度」、すなわち物価変動の影響をとりのぞいた実質GDPの年度別実額データです。
“年度”、”国内総生産(GDP)”と並び、その右以降に並んでいる項目はGDPの内訳です。

年度国内総生産民間最終消費支出民間住宅民間企業設備民間在庫変動政府最終消費支出公的固定資本形成公的在庫変動輸出輸入開差
FY1994426,575245,41126,92060,732-51272,31043,13772134,762-45,368-11,538
FY1995441,404252,39725,39366,2121,44374,78146,21837736,215-51,890-9,740
FY1996453,505258,01628,60169,8301,48176,36245,47925038,556-56,314-8,758
FY1997453,586255,52223,42371,9093,38877,17542,47727241,992-55,113-7,459
FY1998449,877256,74421,08169,357-1378,65543,422-21140,406-51,514-8,049
FY1999452,936260,49321,75268,351-2,98681,52443,153-8442,841-54,897-7,212
FY2000464,337264,13621,65272,65154384,48840,018-3146,914-60,396-5,637
FY2001461,476268,64720,22269,568-1,01387,63937,873-21043,300-58,424-6,127
FY2002465,682271,80019,85067,339-1,04789,42636,055-12348,533-61,189-4,961
FY2003475,360274,25419,78969,75289491,21433,387-29353,334-62,616-4,354
FY2004482,632276,71520,10072,7831,64792,03430,661959,578-68,092-2,803
FY2005492,688281,59220,01678,34465492,40128,2621965,229-72,284-1,545
FY2006499,646283,63620,08380,3811,03692,73326,452-3770,896-74,873-661
FY2007505,507285,92517,25479,8321,83193,94025,3338977,607-76,699396
FY2008488,034280,04517,00375,0302,18693,42124,283-3069,656-73,338-223
FY2009477,511282,71513,55766,088-4,90395,99426,5582563,394-65,526-391
FY2010492,833286,39413,89267,6101,23198,05324,675-9574,749-73,435-241
FY2011495,054288,54714,30270,4811,45199,76224,199373,571-77,247-16
FY2012499,634293,72915,02972,143851101,07124,5031872,388-80,15657
FY2013512,652301,68316,28077,176-1,533102,83126,6053675,582-85,862-146
FY2014510,302293,70314,66579,043808103,23526,0577282,200-89,54161
FY2015516,792295,37315,06979,5322,663105,34825,5652282,774-89,714160
FY2016523,474297,37616,05681,505600105,74324,7472085,422-88,472477

背景色をつけた年度の意味は下の通り。

  • ピンク色にしたのが東日本大震災(2011/3)
  • 黄色にしたのが黒田日銀総裁による3度の金融緩和(2013/4, 2014/10, 2016/1)
  • 橙色にしたのが8%への消費増税(2014/4)

「GDP=景気」ではない

さて、ご覧になってみていかがでしょうか?

GDPは順調に増加していますね。よって「東日本大震災も消費増税も乗り越え、日本は好景気に湧いている」でしょうか?おそらく大多数の方の実感とは程遠いはずです。そして、その実感の方が正しい。他の統計にも目を向けると、GDPでは見えてこない全く別の姿が浮かび上がるのですから。

GDPは一つの参考数値でしかありません。だって、穴を掘って埋めるだけでもGDPという数字は増えるんです。しかし、これで日本経済が良くなったと言えるでしょうか?
穴を掘って埋めるだけ…、まさに政府主導の公共投資がこれに当たります。上の表を見て頂ければ分かる通り、GDPの内訳の中で「政府最終消費支出」は2番目に大きく、今なお増え続けています。しかし、地方創生、クールジャパン(最近こんな記事がありましたね)、そしておそらくは東京オリンピックも、日本のためになる付加価値を産み出すどころか、赤字を垂れ流す負債を残すだけでしょう。穴を掘って埋めてくれればまだマシ…と言えるのかもしれません(笑)。

日本経済に資する投資となっているかどうか、それはその投資が利益を生み出しているかどうかに他なりません。あえて生々しい表現をすれば、”経済力=お金を稼ぐ力”なのですから。GDPという数字の増減のみに一喜一憂するのはナンセンスであり、その質に目を向けねばなりません

日本は国内消費に支えられた内需国家である

では、この表から何か普遍的な事実を読み取ることはできるのでしょうか?

GDP統計の数字の中で、飛び抜けて大きな項目がありますよね。「民間最終消費支出」です。1994年度から今に至るまで、ずっとGDPの約6割を占め続けています。一方、マスメディアが好きな「輸出」はわずか8~16%。
日本経済は皆様の国内消費によって支えられているのです。日本は輸出国家ではありません。総中流階級とも言われる均質な日本人1億人の消費需要に支えられてきた究めて内向きな内需国家である、これが重要なFactです。

マスメディアは輸出がどうとか設備投資がどうとか、そんな記事を多く流しますが、日本の景気を語るなら国内消費に目を向けるのが筋です。
GDP統計の「民間最終消費支出」も何となく増えているように見えるかもしれません。が、GDP統計の数字は会計的な補正が諸々入っています。例えば、持家であっても自分が自分に家賃を払っていると考え、その支払額が計上されていたりするのです。

国内消費の動向をストレートに見るには、GDP計算の元ネタにもなってる”家計調査”というデータが便利です。次回はそちらを紹介させて頂きます。